付き合っていたひとに手厚く供養された話

専門学生の頃に付き合っていたひとのエピソードを書く。オチはありません。

 

当時私は医療系の専門学生で、彼は日本に来て1年目の留学生だった。3歳上の、とても穏やかで優しいひとだ。毎日2時間ほどかけて通学し、慣れない実習で疲れ切っていた私をいつも心配してくれていて、なんとか癒そうとしてくれていたと思う。

ある日、彼が「サプライズがあるよ」と嬉しそうに話してくれた。私のために準備を頑張ったのだ、と言い、早く見せたいと浮ついた様子だ。私は(英国仕込みのサプライズとは如何ほどのものか……)と妙に神妙な気持ちで彼の家にお邪魔したのだった。

彼が住んでいたのは、古い二階建てアパートの一室で、広さは四畳半ほど。当然ユニットバスで、いかにも貧乏学生が住むような家だった。実家を出たことのない私にとっては非日常的で、世界に二人ぼっちになったような心地にさせてくれるところが気に入っていた。

すっかり見慣れたドアを軋ませながら開くと、キャンドルに灯された炎で仄明るい部屋が目に入った。万年床は綺麗に整えられており、控えめな花瓶に花が活けられている。お香からはノスタルジーを刺激される白い煙がゆらゆらと立ち上っていて、なんとも落ち着く空間が作られていた。

「おじょうはいつも大変で疲れているから、今日はオイルマッサージをしてあげる」

言われるがままに布団にうつ伏せになると、玄関からではよく見えなかった素朴で可愛らしい花が、近くでよく見えた。

スプレー菊だこれ……

疲れ目のせいで見間違えたか、と、二度も三度も諦めずにじっと見つめてみたが、紛うことなく菊だった。スーパーの片隅でいつも佇んでいるアレだ。衝撃に打たれながら辺りを見渡すと、雰囲気があるキャンドルだと思ったものは、カメ●マのローソクだ。濃紺のパッケージに誇らしげに書かれた「最高級品」の字が眩しい。

ここまで来ればいっそ……と期待を込めてそっとお香のパッケージに目をやると、流石というべきか、慎ましげなフォントで「桜の香り」とある。狙ったとしか思えない、完璧なコーディネートだった。

(私、死んだんだ……)

日本人の彼女のために日本のものを、と選んでくれたのだろう気持ちが嬉しく、しかし弱冠20歳で死を迎え、供養されながら背中を揉まれている事実がどうにもおかしくて、かなり悩んだが今後のためを思い彼に伝えた。めちゃくちゃ凹まれた。いや突然死なされて凹むのはわしなんだが……

おわり